不登校の状態に陥ってしまった子どもにやる気を出させるために必要なこと。それは心の三大欲求を満たしてあげることです。
自己決定理論という最新の心理学に基づいて、その具体的な方法を説明します。
不登校の主な原因は無気力と不安?
文科省の直近の調査によれば、不登校の原因のトップは無気力・不安で46.3%となっています。
しかし、専門家の多くは、「無気力・不安」は不登校の原因なのではなく結果であると言います。子どもたちが悩んだり、傷ついたりして不登校状態に陥ってしまい、どうしていいかわからずに「無気力で、不安」になるのだと指摘しています。
お子さんが「学校に行きたくない」と言い出した時に親がやるべきことは、原因をあれこれ考えたり、無理やり学校に戻すこと、ではなく、まずは子どもたちにやる気を取り戻してもらうことです。
人にやる気を出させるのに効果的とされているのが、「自己決定理論(Self-determination theory、SDT)」です。
子どもたちにやる気を出させる自己決定理論とは
自己決定理論とは、アメリカ・ロチェスター大学のエドワード・L・デシらによって1980年代に提唱された、人のやる気などについて研究した心理学の理論です。
日本では言葉としてまだ馴染みの少ない「自己決定理論」ですが、人材マネジメントやコーチング、スポーツ、そして先進的な教育の現場で取り上げられて、実績をあげています。
自己決定理論の核となるのは、人とのつながり、自分の力でできたという感覚、自分の意思でやった、という「心の三大欲求」です。
人にやる気を出させる為には、まずこの「心の三大欲求」が満たされることが必要だとされています。
心の三大欲求の充実が子どもたちのやる気を起こす
- 人とのつながり
- 有能感・自分の力だけでできた!
- 自発性・自分の意志でやった!!
この3つの欲求が満たされる時、こどもたちのやる気・モチベーションはどんどん満ちてゆきます。
子どもたちが夢中になる、SNSやゲームを例に「心の三大欲求」について具体的に説明します。
人とのつながりが子どものやる気につながる
子どもたちはつながりを求めます。
学校では先生や友達とのコミュニケーションが苦手なこどもでも、SNSで友達とつながって会話したりゲームをするときには高揚感に溢れ、常に積極的で、やる気まんまんです。
お子さんが「学校に行きたくない」と言っていても、行きたくないと思う理由に先生や友達との人間関係のこじれがあったとしても、人とのつながりは必要です。
人とのつながりは、子どもたちの心の安定感や幸福感に強く影響を与えます。まずは親や家族が子どもたちとの関係を点検し、フラットな信頼関係をしっかりとつくっていくことが大切です。
そして不登校の子どもに、家族以外の人とのつながりを育む機会を提供することはとても重要です。
子どもにやる気を出してもらいたいと思うなら、たとえそのつながりが学校や勉強の為ではなくても、ゲームやSNSの為のつながりであったとしても、人とのつながりを求める子どもたちの心の欲求を、大人が邪魔をしてはいけません。
人とのつながりが子どものやる気につながります
有能感がやる気を育てる
子どもたちは幼い頃からずっと、なんでも自分でやりたがります。自分の力だけで何かができる・できた、と感じることを求めています。
ゲームの世界を覗いてみると、最初は簡単な動きから始まって、だんだんと難しい技術が必要になるようにデザインされています。
この「やさしいことから初めて、だんだんと難しくなっていく」という流れを、まずは生活や趣味、スポーツなど、子どもが得意と感じる分野に取り入れてあげましょう。
もちろん命の危険や大怪我につながるような時は別ですが、
子どもがなにか始めようとするときに「危なそう」とか「無理だろう」などと決めつけてチャレンジの邪魔をしてはいけません。
自分でできたが、次のやる気を育てるのです。
自発性がやる気を伸ばす
自発的に行動することは、やる気を引き出す最も重要な鍵です。
親からなにかを指示されるたびに、子どもたちのやる気は消えていきます。子どもたちに選択肢と決定権を与え、どれをやるか自分で決めてもらいましょう。
子どもは、大好きなことを見つけるとすごい勢いで成長して行きます。
勉強の為にと与えられたパソコンやタブレット。拒絶して見向きもしなかった子どもでも、そのパソコンでゲームをすることを許されるとすぐに使いこなすようになります。やる気になった子ども達の成長速度や創造力には驚かされるばかりです。
ゲームの中で見つけた魅力的なアイテムを手に入れるためなら、誰から教えられることもなく、自分の力でググったり動画を探したり、超自律的で超前向きに行動を起こして、答えを探し出すまで動きつづけます。
親が子どもになにかをやってほしいと思った時、「〇〇をやりなさい」は禁句です。選択肢を並べて、自分で決めてもらうことが大事です。
自分で決めると、やる気は自然に伸びていきます。
自律を引き出す三原則 共感・説明・自己決定
子どもにやってほしいけど「〇〇をやりなさい」は言っちゃだめ?じゃあ、どうすればいいの?と途方にくれますよね。
こどもはみんな大きな可能性のかたまりですが、放任すればそれでいい、ほっとけばそのうちやる気を出すだろうというわけにはなかなか行きません。
それでは、子どもたちが自分の力で動き出す為、子どもの自律性を引き出す為に、彼らとどのように接していけばいいのか、具体的に説明します。
まずは共感から始める(ただし演技や嘘はすぐバレる)
子どもが「学校に行きたくない」と口に出した時、まずは理解を示すことから始めましょう。
相手が「嫌だ」「しんどい」と感じている気持ちを復唱して、理解していることを伝えます。「嫌なんだね」「しんどいよね」と口に出して復唱するところから会話を始めることをおすすめします。
不登校の状態になった時、「学校を休めてラッキー!」と安心している子はほとんどいません。
お子さん自身が「学校に行きたくない」理由や原因をしっかりと理解していることは少なく、また原因がわかっていても「大好きなお母さんに心配や迷惑をかけたくない」と、心の内側を明かさない子も多いのです。
「親が自分の気持ちを理解しようとしている」と感じると、子どもはすこしづつ心を開いて話をするようになります。
上から目線ではなく、できるだけフラットな立場で子どもたちの気持ちや考えを理解し、共感することで人間同士、ほんとうの信頼関係を築くことができます。
親との信頼関係や共感を通じて、子どもたちは自分自身を受け入れ(自己受容)、自己肯定感を高めることができます。自己受容と自己肯定感の土台ができて初めて「やる気」が芽を出して、ゆっくりと育ち始めます。
ただし、心から理解しようとせずに、表面的に共感しているフリだけしたとしても、嘘や演技はすぐに見抜かれますよ。
必要な理由を時間をかけて丁寧に納得できるまで何度も説明する
まずは子どもの心に共感し、信頼関係ができ始めたら、今度はなぜそれが必要なのか、その意義を説明しましょう。
「学校は行くのがあたりまえだ」
「とにかく朝は何時に起きろ」
「勉強が必要なのは当然だ」ではなく、
それがどういうことに繋がるのかを丁寧に、何度でも時間をかけて説明しましょう。
子どもたちがやるべき理由を知ることで、「内発的な動機づけ」を促すことができ、それが「本物のやる気」に繋がります。
「自己決定理論」によれば、子どもたちにやる気を出させる為に先生や親が絶対にやってはいけないのは「叱る」、「おどす」、そして「ほめる」「ご褒美」です。
これらはすべて「外発的な動機づけ」につながるもので、子どもによっては「叱られたくないからやる」「ほめられたいからやる」というある種の「やる気」につながるかもしれません。
しかしその「やる気」は「叱られないからやらない」「ほめられないからやらない」と、すぐに消えてしまいます。
自分の中に動機を見つける「内発的な動機づけ」は、これら「外発的な動機づけ」に上書きされやすいということもわかってきています。
ずっとお手伝いをしていた子どもに、お手伝いに対してお小遣いをあげるようになると すぐに「お小遣いをもらえないならやらない」になってしまいます。
子どもが頑張った時には、「がんばったね、えらいなぁ」より「よかったね、ママは嬉しいなぁ」と言うのをおすすめします。
「ほめる」は上から目線、「うれしい」はフラットな関係なのです。
子どもたちはそれを敏感に感じ取ることでしょう。
決めるのは自分自身であることを伝える
子どもたちに選択肢を与え、親や先生が何を言おうと最後に決めるのは自分なんだということを伝えましょう。
子どもたちが「親が言うから」「先生に怒られるから」と言い続けているあいだは、結果が良くても自己肯定感は上がらないし、結果が悪いとみんな人のせいにします。
子ども自身が子どもの人生の主役であることを伝え、自己決定のプロセスを尊重し、自律的な行動を促しましょう。
人生の主役が自分であることに心から納得すると、子どもは必要な行動をするようになります。
私は子どもにとってだめな親でした。(体験談)
子どもが初めて「学校に行きたくない」と言った時、私も本当に途方にくれました。
1日・2日はいいとしても、休みが続くと癖になり学校に復帰できないと考えました。「休みたい」はただの甘えで、無理やりにでも学校に行かせるのが親の努めだと考えていました。
嫌がる子どもをなだめながら、半ば強制的に学校に送りつけ、仕事の合間に子育て本や不登校についての情報を読み漁りました。
ある週末の学校終わり、お迎えに行った車の中で我が子が「やっと地獄が終わった」と言うのを聞いてはっとしました。
「このままではちょっとやばいのでは」と私もやっと目が覚めたのです。
「アドラー心理学」や「自己決定理論」との出会いで考え方が変わりました。
そしてちょうどその頃読んでいた「アドラー心理学」や「自己決定理論」の本が私の間違いに気づかせてくれました。
「しつけ」と称して親が子どもになにかを強制したり、勉強やお手伝いに褒美をあげたりすることが子どもの自律をじゃましていることに気づきました。
子どもとの関係修復を始めましたが、アドラーが言う「課題の分離」「フラットな関係」というのはなかなか作るのが難しかった。
成功例;お互いに教えあう完全にフラットな関係を構築し、子どものやる気が爆上がりに
小5の頃に私の薦めで始めたルービックキューブを次男は1週間でマスターしました。(最速記録;32秒/6面全揃え)
アドラー先生の薦めに沿って、私が次男とのフラットな関係を作るためにやってみたのは「自分でもルービックキューブにチャレンジする」でした。
1ヶ月以上かかってなんとか6面揃えることができるようになって、
(最速記録;4分30秒/6面全揃え) ルービックキューブでは完全に立場が逆転し「親が息子に教えを請う関係」ができました。
家にいるほとんどの時間、塞ぎ込んで会話も少なかった次男が、ルービックキューブやゲームの世界では親の師匠になりました。
お互いに得意なことを教え合う、まさにフラットな関係が出来上がった頃から、だんだん話をするようになり、今ではいろんなことに積極的にチャレンジする人になりました。
「自己決定理論」をいつでも念頭において、子どもたちとのつきあいを続けています。
学校との付き合い方
- コミュニケーション: 子どもが学校に行かないと決めても、学校に戻るつもりがなかったとしても、学校とのコミュニケーションはキープしましょう。
- 教育委員会も校長も担任の教師もほとんどの場合子どもを応援してくれています。チャンネルは繋いでおいて情報交換を続けておくことをおすすめします。
- 学習サポート: 学業についてのサポートを提供しましょう。不登校の子どもにも、学習ができる環境は準備してあげましょう。
- 他の子からの遅れが気にはなりますが、やる気が湧いてくれば意外と追いつくのは早いものです。準備だけはして、待ちましょう。
- 学校外の活動: 学校以外の活動も大切です。趣味やスポーツ、アートなど、子どもたちが興味を持つ分野での活動を奨励しましょう。
- いろいろな体験を通じて「大好き」なことを見つけると、子どもはどんどん成長していきます。
まとめ
現代の子育ては本当にむずかしいですよね^^;
子どもの自律心を育て、やる気を出させるのは本当に骨の折れる仕事です。
不登校の子どものやる気を引き出すためには、「自己決定理論」の「心の三大欲求」、「自律を引き出す三原則」、を理解し、実践することが効果的です。
骨の折れる、時間のかかることですが、子どもたちを信じて、ご自身も楽しみながら子どもたちの成長をサポートし、自信とやる気を育てましょう。
きっと大丈夫、こどもはちゃんと成長してくれます。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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